華麗でしなやかな足技からオリンピック種目にもなっているテコンドー。そんなテコンドーの歴史は意外にも知られていないものです。
「足技のボクシング」ともいわれるテコンドーのルーツについて触れてみませんか。
1.テコンドーの起源
テコンドーの歴史は1955年。創始者である崔 泓熙(チェ・ホンヒ)氏が、朝鮮半島に伝わる古武術や中国武術、松涛館空手をベースに創立されました。
漢字で書くと跆拳道と記され、それぞれの漢字に意味を持ちます。「跆」は蹴る・跳ぶなどの足による動作を意味し、「拳」は突く・叩くなどの手技、「道」は人として歩むべき正しい道を現しています。
1950年代といえば、日本と韓国・朝鮮の間で戦争による爪痕が残り、反日思想が広まっていた時代です。そんな中で日本の武道でもある空手をベースとしたテコンドーが広まっていったのか。そこには意外に理由が隠されていたのです。
1. 歴史の背景
1945年、当時韓国軍の陸軍少将であった崔 泓熙氏は自分の師団で日本留学中に学んだ松濤館(しょうとうかん)空手をベースとしたオリジナルの空手(蒼軒流)を教え込みます。
1954年、崔 泓熙氏が指揮を執る第29師団歩兵部隊が李 承晩大統領の前で空手の演武を行うことになりました。
演武は無事に成功し、歩兵部隊の演武を見守った大統領は「我が国の軍隊全てに浸透させるべき」と絶賛します。しかし大統領は空手を知らないだけでなく、反日思想の指導者としての立場をもっていました。さらに朝鮮に広く伝わる古武術の1つ「テッキョン」とは技や動きが明らかに異なります。
反日思想の大統領を前に日本の武道である空手とは言えず、さらにテッキョンとは技術体系が異なることから困った崔氏は「これはテッキョンを元に自分が創設した武道である」と主張し、テッキョンの名前をとってテコンドーと名付けたのです。
2. テコンドーには2つの流派がある
テコンドーには実は2つの流派があることをご存知ですか。オリンピック種目として認められ、電子防具によるポイント制を採用したWTF(世界テコンドー連盟)と顔面へのパンチを認めた武道性の強いITF(国際テコンドー連盟)の2つがあります。
私たちがテコンドーと聞いて思い浮かぶのはオリンピックのイメージからWTFではないかと思われますが、WTFは崔氏が創立したITFテコンドーから、見栄えが良くてスピーディーな足技を抜き出して見る者にとってわかりやすく競技化したスポーツなのです。
そのためITFとWTFでは試合のルールが似て非なるものであり、同じポイント制でありながら採点方式も大きく異なります。
最も差異が現れるのは組手試合のルールといっても過言ではありません。
1. ITF組手試合のルール
テコンドーは武道であると同時に格闘技としての側面を併せ持ちます。
相手と1対1で向かい合い、互いに技の優劣を競い合う組手試合はスピーディーで華やか。まさにテコンドーの代名詞であり、醍醐味でもあります。
まず初めにテコンドーの母体であるITFの組手ルールについて解説していきます。
ITFの組手は「マッソギ」といい、打撃はライトコンタクト(しっかりとコントロールした打撃を当てるため振り抜いてはいけない)で行います。攻撃の有効部位は腰から上で下段(腰から下)への攻撃や背面への攻撃が禁止されています。
ポイントの基準は顔面または胴体へのパンチが1ポイント、胴体に蹴りが決まれば2ポイント、顔面に蹴りが決まれば3ポイントが加算されます。
防具はスポンジ製の手足のグローブ、マウスピースの着用が義務付けられます。頭部を守るヘッドギアの着用は男女問わず色帯の選手の場合のみ義務付けられていて、胴体を守るボディプロテクターは色帯の女子選手のみが任意に装着できます。黒帯の場合はヘッドギア、ボディプロテクターの着用は禁止です。
ITFの特徴として顔面へのパンチが認められており、間合いを取った緊張感のある組手スタイルになる傾向が強いです。そのため、遠距離から一気に間合いを詰めて攻撃を当てることができる横蹴りの技術が非常に発達しています。
より武道性が高く、緊張感のある試合が大きな特徴である流派です。
2. WTF組手試合のルール
次はオリンピックの正式種目であるWTFの組手ルールについて解説していきます。
WTFの組手は「キョルギ」といい、打撃はフルコンタクト(防具の上からしっかりと蹴り込む)で行います。攻撃の有効部位は腰から上で下段への攻撃が禁止されています。背面への攻撃はセンサーがついているため認められており、ITFに比べると蹴りの幅が広がります。なお、顔面へのパンチは認められていません。
ポイントの基準は胴体へのパンチ・胴体への蹴りが1ポイント、胴体に回転系の蹴りが決まれば2ポイント、顔面に蹴りが決まれば3ポイント、顔面に回転系の蹴りが決まれば4ポイントが加算されます。
見た目の派手さだけでなく、体格の差を覆す事の出来る回転系の蹴りにボーナスポイントが加算されていることが分かりますね。これは「比較的小柄なアジア民族にもチャンスを」という事で採用されたルールなのです。
防具は公認のグローブと電子ソックス、マウスピースの着用が義務付けられます。また、帯を問わず電子センサーの内蔵されたヘッドギアとボディプロテクターの着用が義務とされており得点は電光掲示板に表示されます。
WTFの特徴は何といっても回転技を中心とした激しい蹴り技の応酬です。顔面へのパンチがない分、懐に飛び込んでマシンガンのような連続蹴りでポイントを奪い合う展開が非常に多いです。
また、日本にはフルコンタクト空手(実際に打撃を当てる空手)出身の選手が多く、KOによる勝ちも認められていることから日本ではITFよりも好まれやすい傾向があるようです。2020年には東京オリンピックが開催される予定なので、WTFの知名度や人気はさらに上がることが予想されます。
以上がテコンドーの歴史、および流派の違いです。
ご清聴ありがとうございました。
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